トニック・ディミニッシュの用法

だいたいにして、dimコード(ディミニッシュの和音)とaugコード(増和音)とが使いこなせるようになれば、作曲初心者は卒業と言えるだろう。どちらも使いどころは結構難しい。何回かに分けて、これらのコードの用法や使いどころについて書いていく。何を隠そう、これらの用法がきちんとまとめて書いてある本を私はお目にかかったことがないのだ。

そこで、いまから「私が作曲初心者のときにこういう説明が欲しかった!」というような説明を書いてみる。

一度に全部は書けないので、今回説明するのはIdimの周辺である。C major scaleならド・ミ♭・ソ♭・シ♭♭。これはトニック・ディミニッシュと呼ばれ、トニック、すなわち I の和音(C major scaleでド・ミ・ソ)がディミニッシュ化したものである。

トニックディミニッシュの用法とは何なのか?

dimコードは、普通、機能的な使い方と経過和音的な用法があると言われるが、トニック・ディミニッシュはこのどちらの用法にも属さない。(後者として分類してある本もある)

まあ、そういう分類学上の問題はあまり意味がないのだが、トニック・ディミニッシュがいつ使えるのかを考える上で知っておいたほうがいいと思う。

トニック・ディミニッシュはいわゆるカラーコードである。ここで言うカラーとはテンションが加えられている(和音に彩りが加わっている=装飾的である)が、機能は元のコードと同じであるというニュアンスがある。つまり、トニック・ディミニッシュの機能はトニックである。この意味において、トニック・ディミニッシュとは、ディミニッシュ・コードの補助和音的な用法(auxiliary function)と言えるかも知れない。

トニック・ディミニッシュの使いどころ

いくつかの典型的な使用例を見ていこう。

トニック・ディミニッシュをトニックだと思って使う

トニックディミニッシュをトニックだと思ってトニックの代わりに使い続ける。ご飯の代わりにパンを食べ続ける。まあ、そういう音楽があってもいいよね?

トニックばかりだと飽きるから途中にトニックディミニッシュを挟む

トニックが連続するI6→I6→I6のような進行だと飽きるのでI6→Idim→I6のように間に挟む。
静と動で言うとI6が静で、Idimが動だ。これだけで音楽が成り立つ。Idimがドミナントのように作用しているとも言える。

遅延解決のためのIdim

V7→I△7という進行において、V7→Idim→I△7に変更する。トニックへの解決を遅らせるわけだ。これを「遅延解決」(Delayed Resolve)と呼ぶ。このとき、IdimはIの和音へのクッションの役割を果たし、ドミナント・モーションの解決感をやわらげる働きがある。

この使い方をするとき、Idimには△7が付与されることが多い。Vの3rdをしばらく残しておくことによって、ゆーっくりと解決している感じが出せるからである。C major scaleで言うとIdim△7は、Cdim△7になる。「そんなコードは楽譜で見たことも聞いたこともねーぜ?」と言われるかも知れないが、待って欲しい。

Cdim△7はB7/Cのように分数コードで表記されることが多い。またCφ△7ならB/C。「B/Cのような形の分数コードなら見たことあるぜ」でしょう?

私はこのB/Cみたいな分数コードを発見した人、なかなか凄いと思うのだけど、dimに△7を付与すると、△7をrootとする7th chordっぽくなるというのは覚えておいて損はない。逆に7th chordは、半音上をrootとするdimっぽさがある。7th chordに♭9のテンションを付与すると、例えば、G7(♭9)=G#dim△7であり、V7(♭9)から根音を省略するとまんま半音上のdimの和音(#Vdim)になる。

トニック・ディミニッシュの使いどころはだいたい上に書いた3つであるが、もう少し突っ込んで考えてみよう。

遅延解決のためのその他のディミニッシュ

同じ理屈で、遅延解決のために、IVdim(サブドミナント・ディミニッシュ)やVdim(ドミナント・ディミニッシュ)なんてのも考えられる。いや、考えられるという話だけで言えば、あらゆる和音、例えばXやXmの前にXdimを置いて遅延解決する、みたいなことは可能であるはずだ。Xの前にXsus4を置く遅延解決と同じ理屈である。

しかし、ドミナント・ディミニッシュはともかく、サブドミナント・ディミニッシュなんて検索してもほとんど出てこないのでこの用語をミュージシャンの前で言っても「(゚Д゚)ハァ?」と言われること請け合いだ。言わないほうがよろしい。ミュージシャン達はこれらを単に「Delayed Resolve」と呼んでいる。

いくつかの実例

C6-B7-C6 : 上で紹介した、C6-Cdim-C6の形に似ている。CdimをB7/Cと書き換えて、ここからcを省略したものだと考えられる。C6が続くのが退屈なので途中をCdimにしたのだけど、根音のcが嫌だったのでこれは省略しましたと。この意味においてB7はトニック・ディミニッシュの一種とみなせる。

C6-F7-C7 : 7th chordが半音上のdimコードで代用できることは上で説明した通りであり、F7≒F#dim=Cdimで、そう考えるとき、F7はトニック・ディミニッシュの一種とみなせる。

C7-F7-C7 : これも同様。

C6 – A♭7 – C6 : A♭7=Cφ(♭13)。A♭7もトニック・ディミニッシュの一種とみなしていいでしょう…。

C6 – D7 – C6 : D7はCdim(9)から♭3を省略したものとみなせる。♭3と♭5の両方があるとテンションがきつすぎるのでマイルドにしたトニックディミニッシュの一種であると考えることが出来る。

このように、いままで属調や下属調などからの借用と考えていたようなコードもよくよく見るとトニック・ディミニッシュの変形とみなすことが出来る場合がある。そうみなすのが必ずしも正しいと言うわけでもないが、「トニック・ディミニッシュとみなすことも出来る」ということがわかると視野が広がると思う。

まとめ

今回はディミニッシュコードの用法のうち、トニック・ディミニッシュについて詳しく説明した。他の用法については別の記事として書く。

トニック・ディミニッシュについて詳しく解説してある書籍が存在しないのは本当に残念である。私がこの音楽理論ブログを書こうと思うに至ったきっかけも、従来の音楽理論の書籍にこのへんの詳しい説明がなかったからでもある。わかりやすく説明をしてくれる人がいなかったので私は本当に回り道をしてしまった。この記事が読者の皆さんの理解の一助となればこれに勝る喜びはない。


作者 やね うらお

BM98,BMSの生みの親 / ヒルズにオフィスのある某社CTO / プログラミング歴37年(5歳から) / 将棋ソフト「やねうら王」開発者 / 音楽理論ブログ / 天才(らしい) / 毎日が楽しすぎて死にそう

コメント (3)

  1. とても参考になりました。
    ありがとうございます。
    ステラ・バイ・スターライトの
    1小節目のコード進行(#Ⅳm7-5 – Ⅶ7)はそれに当てはまるんでしょうね。

    augコード(増和音)についての説明も
    拝読したいのですが、すでにブログで書かれていらっしゃいますでしょうか?

    よろしくお願い致しますm(__)m

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