今回はVIIφが出てきたときに、これをどう解釈するのかについて説明する。
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長調の場合
長調の曲でVIIφ(VIIm♭5の意味)が出てきたときは、V7の根音省略とみなすのが普通である。
※ φ記号についての説明は 本サイトの和音記号についてをご覧ください。
「和声と楽式のアナリーゼ」でもVIIφのところは、V7の根音省略(“V”にスラッシュ“/”を重ねた記号)として説明がしてある。
この本は、古典和声の独習用の教材として優れているのでお勧めしておく。
VIIφがV7の根音省略であるとみなせば自動的にこれはドミナントであるということになるし、ツーファイブ(IIm→V)の代わりにIIm→VIIφとかもアリだということがわかる。
という風に音楽の理論書には書いてあるわけだが、私は最初に根音省略という表記を見たときに、「根音省略って、根音みたいな重要な音を省略していいのか?」みたいな疑問が沸々と湧いた。「根音を省略すると別の和音ではないのか」と。もうその疑問で頭がいっぱいになり、そこから1ページも先に進めなくなった。
だから、ここにその疑問の答えを書いておかなければならない。
V7をドミナントたらしめているのは、トライトーンである。G7であれば、b(シ)とf(ファ)が減五度(≒トライトーン)となっているので、これが弾みとなってドミナント・モーションが可能となるのである。つまり、ドミナント・モーションという観点から見るとG7において大切なのはg(の音)ではなく、bとfなのである。
※ g,b,fのように小文字で表記しているのは単音を意味します。
しかも、五度のうち、減五度が出現するのは、C major scaleではbとfの間にだけである。他の箇所は完全五度になっているのである。
( cとg、dとa、eとb、fとc、gとd、aとeは完全五度) そこで、major scaleで演奏されていることがわかっているときに、VIIφの和音を聴くと、トライトーンが出てきているのでV7と錯覚するのである。
いや、錯覚はしないかも知れないけど、トライトーンを解決することでIの和音に進行できるので、V7の代わりになるのである。
であれば、錯覚する/しないは置いておくとしても、Xφ(Xは任意の度数)の和音に対して、xの長三度下に幻の音を仮定したほうがわかりやすい。
※ 小文字で表記しているxはXφのrootの音(単音)を意味します。
VIIφを聴いたとき、V7に聴こえるので、であれば次に来る和音は普通はIの和音である。一般化するとXφを聴いたとき、xの長三度下の7th chordに聴こえるので、xの半音上の和音に解決しようとする。これが、passing diminished chordなどのdiminished chordを半音上の和音に解決させる理論的根拠である。
短調の場合
話がそれたが、VIIφは、短調の和音だとみなした場合はどうだろう。
長調のVIIφは平行短調から見るとIIφである。ツーファイブのツーであるから、ツーファイブの核となる和音である。ゆえに、IIφ→V7→Imのようにして使える。これを長調から見るとVIIφ→III7→VImという進行に見える。
VIIφは長調ではV7の代わりにときどき使われる程度であったのに対して、短調だとツーファイブのツーなので多用される。つまり、VIIφ自体に短調っぽさがある、もしくは短調で聴き慣れている和音であると言える。
では長調から見てVIIφ→VImという進行があったとき、これはどう解釈されるべきだろうか?
長調としてみなすとVの根音省略(=ドミナント) から VIm(Iの代理和音=トニック) へと進んだように思えるし、短調だとみなすとIIφ(サブドミナント)からIm(トニック)に進んだように見える。では長調か短調か決定できないときは?
…みたいなことを考えながら、みんな大人になっていくんだよね。