はじめに断っておくが、本記事はボーカルの人の悪口を言う趣旨ではない。そういうつもりは全くない。その点だけ念頭に置いて読んでいただきたい。
私はこの春から音楽活動の一環として、バンドをはじめたのだけど、バンドメンバー募集サイトでメンバーを募集しても来るのはボーカルの人がほとんどである。
ボーカルは楽器経験者と違って、「俺って上手いんじゃね?」といくらでも勘違いすることができる。例えばギターであれば、速いテンポで演奏できなければ、その時点で「俺ってギター下手だなぁ」と気づくわけであるが、ボーカルは本人はなかなか下手であることに気づかない。そもそも、下手であることが自覚できる程度に音楽的な能力(感性?)があるならば、そんな人はもっとうまく歌えていてもおかしくはない。自分が下手なことにすら気づかないような音楽的な能力しか持っていないからこそ、下手なのがなおらないわけであるな。
そんなわけでボーカルで応募に来る人は、下手な人はかなり下手なのである。当然上手い人もいるわけであるが、その落差が結構あるのがボーカルである。(ということを私は改めて知ったわけだ。)
ボーカル希望者のうちの大半はバンド演奏で使うような楽器の経験がない。楽器経験があれば、その楽器をバンドをやっているだろう。やってないからこそボーカルなのだ。(ということが多い) 楽器経験がないということは五線譜が読めない。五線譜が読めないので楽譜は当然確認しない。楽譜を確認しないので、音の長さ(音価)はでたらめ、音の高さ(音高)もでたらめ。(であることが多い)
音価や音高がでたらめだと、聴いているほうには極めて下手な歌い手に聴こえる。これだと本当はオンチじゃなくてもオンチに聴こえるし、実際オンチであることもある。
ところがDTMが発達した現在、音価や音高は、DAW(パソコンの音楽ソフト)で多少なら補正できなくもない。つまり、オンチであるかどうかは最終的な曲の仕上がりにはあまり関係がない。曲の仕上がりに関係ないのだから、プロデビューだって夢ではない。すこぶるオンチなのに、である。(笑)
まあ、それはそれとして、今回の記事では、ボーカルを単なる楽器の一種、すなわち音源であるとみなしたときに、どんな特性を持っていると嬉しいかを作曲方面から考えつつ、どんなトレーニングが有効なのか提示してみる。
演奏解釈をして歌に表情をつけることや、呼吸法、それから喉を鍛える(音域を広げる)、リラックスして歌うなど一般的に言われているようなボーカルトレーニングはすでにひと通りやっているものとして、それ以外の何かを書いてみる。
短い時間での音高を収束させる
うまいボーカルの人は狙っている音高に極めて短い時間で到達する。これはプロと素人の歌をそれぞれ周波数のスペクトルを調べれば一目瞭然である。
作曲する立場から言わせてもらうと、狙っている音高に到達するのに時間がかかる音源は、速いテンポでは扱いにくい。速いフレーズだとその1音、1音にとどまっている時間がより短くなってしまい、曲として成立しなくなるからである。要するに、オンチに聴こえる。
どうすれば短い時間で狙っている音に到達できるかというと、「喉にこれくらい力を入れればこれくらいの高さの声が出るという対応関係」をきっちり体で覚えてしまうことである。
歌い慣れていない人は、これを体で覚えられていない。絶対音感のある人は、自分の声を聴きながら調整できるのでなんとかならなくはないのだけど、そうやってしまうと耳からのフィードバックによって声を調整するための遅延時間が発生するので、速いテンポの曲は歌えないし、聴いているほうにとっては綺麗に聴こえない。だからなるべく自分の耳からのフィードバックに頼らずに正確な音高で発声できる必要があるのだ。
ピアノでは、ハノンでスケールとアルペジオの訓練をやるが、ボーカルのトレーニングとしてもそういう訓練が必要だと私は思う。
このときに、音高(声のピッチ)をPCやスマホで計測できるアプリを併用すれば正しく発声できているのかがチェックできる。
1音、1音チェックしながら、なるべく速いテンポでスケールとアルペジオみたいなものを歌う訓練をすべきである。
あと、歌い慣れていない人は、裏声(ファルセット)だと音高が安定しない。
歌いこむ前に、まず裏声でも単音に対して正確な音高で発声できる訓練をするべきである。
音名で歌う訓練
歌ものである以上、歌詞がついている。歌詞がついているので歌詞を歌おうとする。
ちょっと待てい!と言いたい。
それだと、自分が何の音を出しているのかが意識できない。そこで、楽譜を見ながら正しい音名で歌う。そういう訓練をした上で、それが完璧できるようになってから、歌詞で歌う訓練をすべきである。
歌詞を歌うのは、音名で歌うより数段難しいはずで、その段階を経ずに難しい訓練を先にやろうとするのでうまくならないわけである。
あと、音名で歌うとき、「ファの#」を「ファ」と歌ってしまうのは、子供のころに音楽教育を受けていて、「ファ」と歌っていてもそれが実際には「ファの#」であることを耳でわかっている人には何の問題もないが、そうでない人が「ファの#」を「ファ」と歌うと音とそれに対する音名を間違って記憶しかねないので、私はお勧めしない。
どう音名で読めばいいかは色々流儀があるが、例えば、西塚式だと「ドの#」は「デ」、「レの#」は「リ」、「ファの#」は「フィ」、「ソの#」は「サ」、「ラの#」は「チ」と読む。このへんは覚えやすくて、かつ、一文字であれば何でもいいと私は思う。
楽譜を見てリズムを正確に
楽譜上、ひとつの音符に歌詞は普通は1文字だけである。ところが、場合によっては2文字が割当っていることがある。「歩いた」という歌詞があったとして、四分音符に「ある」「い」「た」と割当っているとしよう。
この「ある」の「あ」と「る」の長さは均等なのか、均等でないのか。後ろ(「る」と「い」の間)は余っているのか、余っていないのか。組み合わせは、4つある。
1) 均等かつ、後ろが余っていない
このとき「あ」も「る」も八分音符。
2) 均等かつ、後ろが余っている
このとき例えば、「あ」と「る」は十六分音符で、後ろに八分休符。
あるいは例えば、「あ」と「る」と休符とが、八分の三連符になっているだとか。
3) 均等ではなく、後ろが余っていない。
例えば、「あ」が「る」の長さの2倍あるだとか。(四分音符と八分音符による三連符。)
4) 均等ではなく、後ろが余っている。
例えば、「あ」が八分音符、「る」が十六分音符、そのあと十六分休符だとか。
この4パターンのうちのどれになっているか、原曲があるなら原曲を確認しよう。
たいていは、1)か2)である。
面白い例を一つ挙げる。
四分音符2つにそれぞれ「あるい」「たの」と割り当てたとする。このとき、1)のように歌詞を割り当てると、「あるい」は八分音符から成る三連符であり、「たの」は八分音符2つである。
つまり、譜面上の音符はただの四分音符2つに過ぎないのだが、ボーカルとして歌う必要があるのは、三連符および、八分音符2つである。それゆえ、このボーカルパートには変拍子っぽさがある。
作曲上、こういうテクニックは極めて有用なのだが、それはさておき、ボーカルを受け持つ人は、楽器演奏者より細かいリズム感を要求されることがあるということは、この例からもわかるだろう。楽器演奏者は単に四分音符を2つ演奏しているだけなのに、ボーカルの人は、3連符と八分音符2つのリズムをきちんと再現しないといけないのだから。
それゆえ、ボーカルの人はこの手のリズム訓練を楽器演奏者以上にやる必要があると私は思う。
スロー再生するなりして、それに合わせて歌って、正確なリズムを掴もう。
まとめ
何故、一つの音をきちんと出せないのに2つ目の音を出そうとするのか。
何故、その音の音名すらわかっていないのに、歌詞で歌おうとするのか。
何故、リズムがきちんと取れないのに原曲のテンポでやろうとするのか。
私に言わせれば、初心者のボーカルの人は大抵、ハードルを自ら上げて難しいトレーニングをいきなりやろうとしている気がする。
楽器奏者はよほどうまい人は別として、普通はいきなり原曲テンポでは練習しない。かなり遅いテンポで完璧な演奏を体で覚えて、それを徐々に速くしていく。ボーカルもそうすればもっと簡単にうまく歌えるようになると思う。
歌をあえて楽器とするならば、誰にでもいつからでも始められる簡単な楽器であると同時に、実は「一番難しい楽器」でもあります。「音階を外さない、リズムを正確に」はスーパーボーカリストの条件の最初の5%くらいです。
スーパーギタリストのcharとか布袋でさえ歌は長いことやってるのに歌唱力は平凡である。彼らは理論も持ち音階も音価もリズムも外さないのに歌が上手いかと言われれば”普通”である(個人的な感想ですが彼らのギターを褒めても歌を褒めている人を見たことがないし、高音は未だに苦手で声質もあまり良くないと思う)
私自身、ピアノ、ギター、歌、作曲とやっていますが歌だけは伸びないので諦めています。
説明解説有り難う御座います。
でも解らない方が多いと思う。
音価のでたらめな演奏や歌唱ばかりたですね
YouTube動画で、自分のレコードと同じ音価で歌える歌手は極端に少なく辟易します。
カバー曲演奏でもオリジナルと違いすぎるのが有りますが、自分には正しく聞こえてるのだろうか、上手いアレンジと思ってんのか不思議です。
下手な編曲の演奏と相まって、歌唱の音価の狂ってるのは音楽になって無いただの雑音です。
声を楽器にするならコールユーブンゲンまじめにやれ、という話ですね。