音楽未経験者がト音記号の右肩についている1個のシャープ記号(#)について質問した。
「この#はなんですか?」
この音(ファ)が出てきたときに、ファは半音上げるということだよ。
「何故、ファだけ半音上げるんですか?」
#(と♭)がひとつもない場合、どの音も元の音から変化しないから、「ド・レ・ミ・ファ・ソ・ラ・シ・ド」だよね。このとき、主役となる音は「ド」だ。(以下、ハ長調の説明や平行短調、からト長調の説明などがここに入るが割愛。)
「ということは、#が1個だと、主役の音はソから始まる長調か、ミから始まる短調だということですか?」
そう。
「それがつまりト長調とホ短調?」
はい。
「それっておかしくないですか?必ず7音使うことを前提に話を作っていませんか?」
え。
「だってそうでしょう?ト長調だからってソ・ラ・シ・ド・レ・ミ・ファ#の7音すべてを曲のなかに使わなくてもいいわけでしょう?ソだけの曲があってもいい。」
確かにそうだね。1音だけだと曲としてつまらないかも知れないけども、5音だけ(ペンタトニックスケール)で作られた曲というのは世の中にたくさんあるね。
「だとしたら、調号の1個の#が示すことというのは、ト長調かホ短調であることを意味するのではなく、12音から7音を引いた、ド#・レ#・ファ・ソ#・ラ#の5つの音を使わないと宣言しているに過ぎないのでは?」
ああ、そうだね!臨時記号なしにはその5つの音を使わないということだね!
「じゃあ、何故、使わない音がそんなにたくさんあるんですか?12音のうちの5音もいきなり使いません宣言するだなんて?」
でも、ほとんどの曲はそうやって作られてるよ。
「使える音をあえて減らす意味は?」
12音、全部使うとまとまりのない感じの曲になるから。(このあと、トーナリティの説明や、自然倍音列にメジャースケールが近いことなどの説明が来るが割愛)
「まとまりのないとおっしゃいますが、7音全部同時に使うとそれだけでも十分、まとまりのない感じになりますよ?」
うん。だからある瞬間に7音全部は(普通)鳴らさない。いくつかのグループに分ける。
「ほほう?」
この楽譜を見てごらん。ここにCと書いてある。これはコードネームと呼ばれる。この小節では、Cの構成音であるド・ミ・ソかそれにまつわるような音しか使わないということだ。
「つまりこの小節のなかでは3音+αぐらいしか使わないと?」
うん。
「7音のうち、3音か4音を使うとしたら、7音の半分ですよね。この小節では、コードネームCを割り当てることで、残り半分の音を使わない宣言してあると読み取れるんじゃないですか?」
経過音や刺繍音とかがあるけど、そういうのを除けば、原則的にはそうだね。ある小節では7音すべては使わない。もっと絞る。
「さらに言えば、1小節丸々にコードネームCが割り当てられていたとして、1拍目では、そのコードネームCよりさらに音を絞るということはあるわけですよね?」
当然だ。1拍ごとに毎回3音すべてを必ず使うというのはとても強い制約で、普通はそうはしない。例えば、伴奏は、ド→ミ→ソ→ミや、ド→ソ→ミ→ドのように構成音が分散して配置する形にされることが多い。
「だとしたら、コードネームの構成音をさらに絞っているわけですよね。コードネームが変わった瞬間には、コードネームの一番低い音(根音)を鳴らすだとか、何らかの制約がある。」
根音を1音目に鳴らすとは限らないけど、確かにある瞬間、瞬間には何らかの制約はあって、音を絞っているとみなすことは出来ると思う。
「曲全体で12音のうちの5音は普通使わないとして、残った7音もいくつかのグループに分けて、どのタイミングでもこの7音が使えるというわけではないわけですよね。」
ああ、そういう考えかたも出来るね。ただ、2つ以上のグルーブをかけもちしている音はあるだろうけど。
「曲自体は、このグルーブという考え方を導入するとグループA→グループB→グループC→グループAみたいな進行をしているというように捉えられるわけで…」
コード進行の考えかたがまさにそうだね。
「さらに、そのグループAもさらにサブグループ1、サブグループ2、サブグループ3のようにわけられて、ある小節のなかではサブグループ1→サブグループ2→サブグループ1→サブグループ3のように進行していると捉えられるんじゃないですか?」
面白い捉え方だね。そういう風に、曲全体を入れ子構造で捉えていくと思わぬ発見があるだろうね。
このあと、実際の楽曲をどういう風に構造レベルに分解していくのかの話が続くのだけど、それはまたの機会に。