長和音(メジャーコード)の11thは何故avoid noteなのか。音楽理論の入門書でこれに対して明快な説明をしてくれた本はただ一冊しかなかった。それ以外の理論書は私にとって本当にゴミだった。残念なことに世の中にはゴミのような音楽理論書がほとんどだったのだ。
順を追って話を進めよう。まず、アヴェイラブル・ノート・スケールという概念がある。
アヴェイラブル・ノート・スケール(Available Note Scale)とは、バークリーメソッドと俗に言われる音楽理論で用いられる概念である。
詳しいことは上記のリンクを見てもらいたい。
この理論(概念?)では、C major scaleにおいてC△7を弾いたときにfがavoid noteだと言うわけだ。
※ 本記事では小文字で表記するcやfは、和音ではなく単一音の意味である。逆に大文字でCと書けば、Cメジャーの和音(ド・ミ・ソ)であるので注意されたし。
さて、このavoid noteに関して、全体的な法則性を考えると、長和音のときは11thがavoid noteとなるようである。
何故なのか?何故、長和音に対して11thは使ってはいけないのか?何故#11thならば良いのか?
私のこの問いに明快に答えてくれたのは、Mark Levineのマークレヴィン ザ・ジャズ・セオリーだけだった。
日本語版は値段が高いので英語が読める人には原著(The Jazz Theory Book)をお勧めする。Kindle版が2754円 (2014年12月24日現在)である。前者からavoid noteに関する記述を引用する。
ピアノに向かい、Fig.3-8に示されたように、C△コードのルート・ポジションを左手で弾きながら右手でCメジャー・スケールを弾いてみましょう。スケールの中に、他の6つの音よりもはるかに不協和(ディソナンス)な音があります。同じコードを左手で弾きながら、右手で4thのFを弾いてみましょう。不協和なサウンドが聴き取れますか?これがいわゆるアヴォイド・ノートです。
マークレヴィン ザ・ジャズ・セオリー p.33
C△に対してf音は不協和になるというのだ。C△のベースの音はcで、そこと完全四度になっているので鋭い響きがするわけだが、そこがfがavoid noteたる理由ではない。なぜなら、C△を転回形で使っていたとしてもやはりfはavoid noteであるということから、C△自体は転回形で使おうともC△は全体としてfと不協和なサウンドになっているということになる。(ピアノを弾いて自分の耳で確かめて欲しい)
つまりベースの音が何であるかはアヴェイラブル・ノート・スケールという概念上は関係がない。(ただし、実際的には大いに関係がある。自分の耳で音を聴き、自分の耳を信じろ!)
私なりにアヴェイラブル・ノート・スケールの説明をすると、C△が全体としてひとつの大きなcっぽい音になっていて、これがfと不協和なサウンドを形成しているということだ。それは、cの上方倍音を拾うとCメジャーっぽい和音が出来る。(上方倍音を拾ったときにC7のほうがC△7よりは近いのだけど、そのへんは高次倍音でかなりの微小成分なのでほとんど誤差である)
この理屈により、C△7≒大きなcであり、大きなcとfが完全四度であることがfがavoid noteたるゆえんである。一言添えるなら完全四度だから不協和だという話ではなく、大きなcに含まれるeやf#の成分がfと半音でぶつかっていることが相対的に不協和なサウンドに感じる主な原因だと思う。
あと、上記の本には続きがある。それも引用しよう。
Fig.3-9に示したように、もう一度同じコードを弾きながら、右手で真ん中にFがはさまれた短いランを演奏してみましょう。今度はFがパッシング・ノート(経過音)になっており、コードに対して強く弾かれたり長く延ばされたりしていないので、不協和はほとんど気になりません。アヴォイド・ノートというのは、その音をまったく演奏してはいけないような暗示があるので、あまりよい用語とはいえません。注意して用いる音の方が、もっとよい名前でしょう。残念なことに、それはあまり人の気を引く名前ではないので、私は(仕方なく)アヴォイド・ノートという用語を用い続けることにします。
ところで、協和(コンソナンス)を良い、不協和(ディソナンス)を悪いと考えてはいけません。不協和は、テンション、解決、それにエネルギーを創りだすことによって、音楽をおもしろいものにします。創造的な不協和の活用は、西洋音楽の全体的な発展をうまく言い表している言葉といえるでしょう。
マークレヴィン ザ・ジャズ・セオリー p.34
この引用部の「注意して用いる音」は、原著では「care note」と書いてある。確かにavoid noteよりはcare noteという名前であったほうがこの概念ははるかに理解しやすかったと思う。
私は音楽理論の学習の早い段階でこういうきちんとした説明を聞きたかった。糞みたいな音楽理論の書籍に囲まれて、本当に回り道をしてしまった。そういう意味では前述のWikipediaの「アヴェイラブル・ノート・スケール」の項もあまりいい説明とは言えず、ああいう説明によって間違って理解する人が続出するのかと思うと胸が張り裂ける思いである。
倍音で考えると、
3倍音と2倍音が短2度衝突するのは、減5度と短6度。
しかし、短6度は不協和音ではないのが不思議なんだよなぁ。
短六度が協和音程である理由は色々あって、そのへんを書き出すとキリがないのですが、例えば、平均律でなければ、短六度は協和音程で、増五度は不協和音程であるというのも根ざすところは同じですね。
鋭い記事ですね。
個人的には「ドミナントに聴こえるから」でFAしています。
4度を4/3で取るとクラシックで使われる5度下の和音の第2転回形のドミナントに、
21/16で取るとポップスで使われるsus4/7のドミナントの和音に聴こえます。